奏でる家にて、
昨日が手を振る
三田村 光土里
2023年9月30日(土) ー 2023年11月11日(土)
Permanent Room 1998 木製ベッド、写真、照明器具 他
三田村 光土里は1990年代初頭、自身や家族の古い写真を素材とした立体作品を制作し始め、部屋や家を題材にしたインスタレーションを発表してきました。
今回の『奏でる家にて、昨日が手を振る』では、それらの造形作品を、故・石原悦郎の私邸であるツァイト・フォトにおいて再構成するとともに、石原邸に遺されたレコードや古い写真アルバムを元にした新作ドローイングを公開制作します。昭和の高度成長期を経た二つの無縁なはずの家の記憶が、そこに在った人の営みを追想するとともに、平行する人生の時間が交差し出会う未来の風景として現れます。
OPEN : 金・土曜日
および 10/1(日)、10/8(日)、10/9(祝)、10/15(日)
時 間:11:00 - 18:00
* 金曜日のみ 15:00 - 20:00
( 火・水・木曜日は予約制 ご予約はこちら )
● オープニングレセプション 10/1(日) 17:00 -
幼い頃、父母と兄、姉、私の五人家族が暮らした小さな平屋の家。物心ついてからの記憶は、8歳上の姉が練習するピ アノの音と、家に帰りたくて保育園で抵抗する毎日で始まる。会話も給食もトイレまでも拒否し、母親が迎えに来るのを 待って一日中泣き暮らす、そんな幼い世捨て人のような生活が卒園まで続いた。
11歳上の兄は、中学の頃から物置小屋を改築した離れに住まわされていたが、それでも手狭になった我が家は近所に家を新築することにした。私は10歳になり、家では毎日、姉が音大受験のために猛練習するベートーヴェンのピアノソナタが鳴り響いていた。
1970年代前半、家に集められた住宅建築の雑誌には鉄筋コンクリートのモダンな邸宅が輝いていて、ページを繰り返 し眺めては、こんな家に住むのだろうかと、子供ながらに遠くの誰かの洗練された住まいに魅了された。
完成した家は雑誌のイメージとはかなり違う日本家屋だったものの、一人で目覚める部屋や姉のグランドピアノが聴こえる家は、以前とは見違える暮らしに思えた。
古い家は貸家にしていたが、数年前に空き家となってからは私の作品倉庫と化した。大人になって初めて足を踏み入れると、アップライトのピアノや勉強机が並んでいた部屋のなんと小さなことか。東京に出て現代美術に目覚めてから、この家で寝た二段ベッドや本棚を引っ張り出して、そこに幼い自分や家族の写真を施して作品にした。それらを数十年ぶりに運んで戻すと、過去に生きていた私たち家族が造形物に姿を変えて還ってきたような不思議な光景が現れた。
初めて石原邸を訪れたとき、まさにあの建築雑誌の中の世界に再会したような気がした。1968年に建てられた邸宅には、石原氏が蒐集したクラシックのレコード盤が遺され、主人亡き後も時々その音が奏でられる。国立(くにたち)の瀟洒な住宅街にこの家が建ったばかりの頃、名古屋郊外の保育園では一人の女児が帰宅を訴え、日がな一日泣き続けていたのだ。家に帰り、飽きることなく絵を描くのだけを悦びに。
今ここに、奏でる家から奏でる家へ、遠い記憶の像を纏った作品たちを招き入れ戯れさせてみよう。遠足の集合写真に 並ぶ不機嫌な園児の私が、未来に住む私を不安げな目で睨んでいる。なんて遠くまで来てしまったのかと。
人生は短かくとも一瞬は永遠にそこに在るように、奏でる家で、昨日が手を振っている。
三田村 光土里
● 公開制作 - ファウンドローイング -
2023年9月30日(土) - 10月15日(日)
● トークイベント
「 部屋の中へ 」
2023年10月14日(土) 15:00 - 16:30
三田村 光土里 x 神山 亮子 ( 府中市美術館 学芸員 )
参加費:1000円 ( 予約制 )
※ 満席のため、募集を締め切りました。
メール にて、ご予約ください。
● アフタートーク
「 奏でる家の記憶の食卓 」
それぞれの記憶の中にある懐かしい家庭料理を再現し
作家と共にみなさんで昭和を感じさせる食卓を囲みます。
2023年10月14日(土) 17:30 - 19:30
参加費:2000円 ( 予約制 )
*ご予約時に[ 記憶のおかず ]一品をお知らせください。
希望の多かった人気のおかずを楽しみます。
※ 満席のため、募集を締め切りました。
メール にて、ご予約ください。
【 同時期開催 】
MEGI Fab 三田村 光土里
2023.9.30 - 2023.10.15
museum shop T
12:00 – 19:00 ( 月・火 定休 )
JR「国立」駅 南口より徒歩3分
国立市東1-15-18 白野ビル3F
tel: 042-505-9587
三田村 光土里 Mitamura Midori
1964年愛知県生まれ。「人が足を踏み入れられるドラマ」をテーマに、フィールドワークから得られる日常の記憶や追憶のモチーフを、写真や映像、日用品、言語など様々なメディアと組み合わせ、私小説の挿話のような空間作品を国内外で発表している。