屋代 敏博 回帰
この度、ZEIT-FOTO kunitachiでは、屋代敏博の個展「テックやしろ、参上! 屋代敏博 回帰」展を開催いたします。
1996年に写真によるシリーズ〈銭湯 SENTO〉を、2003年に〈回転回 KAI-TEN-KAI〉を、2007年に〈回転回オートクチュール KAI-TEN-KAI Haute couture〉をツァイト・フォト・サロン(日本橋室町、京橋)で発表して以来、久しぶりに屋代敏博が「テックやしろ」として、新作を多数引き連れて戻ってきます。
それにしても、彼はどうして全身タイツ姿なのか? 屋代はこう答えます。
“〈回転回 KAI-TEN-KAI〉の最初は、全身黒いタイツを着て、写真の中で自分が影になろうと考えていました。でも、写真を撮るより、写真の中で何かになってしまえばいいんだと思ったのがはじまりです。例えば「ここに赤が欲しいな」と感じたら赤いタイツになる。写真は、カメラマンと被写体がいて、カメラマンの方が写真を作っていると思われがちだけど、世界はカメラマンの方にはない。だから向こうの世界で作品を作ったらいいんだと考えました。”
なるほど。タイツになった背景には合理的で深い理由があったのだとわかります。でも一方で、「テックやしろ」の全身タイツはその合理性を突き抜けて、むしろそのこと自体がパフォーマティブで、言ってしまえば、笑いを誘ってきます。
“ 僕は現代美術は2つの大事な定義があると思っています。まずは、同時代性。つまり、作家と鑑賞者は今を同時に生きているのだから関わり合うことができる。それから美術史を更新することです。その一方で、僕には問題だと考えていることがあります。それは今、日本の小学生で夢がないと答える子が増えているということです。その理由を考えたら、もしかしたら大人がつまらなそうにしているせいでは? と思いました。僕はアートをやっていて、作るのは楽しいし、その楽しんでいるということ自体を見せたいし、楽しい大人を作りたい。そうすることで、こどもたちが楽しめる社会が実現できると思います。 ”
だから屋代は「テックやしろ」として、人と関わり合いながら生み出す作品の方へと向かっていき、全身タイツ姿で笑われながら、アーティストと鑑賞者の垣根も壊して、交わろうとしてきました。特に今回出品される新作の〈メラメラバチコイ〉は、その強い思いが生み出した作品です。立体、そして平面と動画からなる本作は、VRを動かして生み出されています。金色の不思議な形の立体物は、屋代はこれを楽しんでいる大人に分けるためのトロフィーなのだと語ります。
ワークショップでは、いろんなものを楽器にしてしまう〈蓄音機奏者 Phonographer〉のパフォーマンスや、〈回転回LIVE!〉を開催予定で、ZEIT-FOTO kunitachiをたのしく盛り上げます。いえ、一緒に盛り上げていきましょう! ちょっと笑いが欲しい方。ぜひ、お足をお運びください。
メラメラバチコイVR彫刻 ライブパフォーマンス 2022
大学を卒業し、日本橋ツァイト・フォト・サロンでの初めての個展から28年。銭湯シリーズから始まった私の写真家としての活動は、時を経て、この度美術家テックやしろとして場を広げ、ここツァイト・フォト国立に戻って参りました。28年前、創業者である故石原悦郎氏からの「君の作品はユーモアがあって笑っている。これからも作り続けなさい」という言葉が、写真家としての道を進む決意を確固たるものにしてくれました。アートが先駆けとなり、時代が追随してくる。私にとって本展覧会は原点回帰の舞台であり、出発点でもあります。新たな視点から作り出した新作を展示致します。会期中にはライブパフォーマンスやワークショップなど体感して頂ける機会もございます。皆様のご来廊を心よりお待ちしております。
屋代 敏博
SENTO DAIICHIYU 1995
屋代 敏博(やしろとしひろ)
写真家・現代美術家・パフォーマンスアーティスト。
1970年埼玉県東松山市生まれ。多摩美術大学で映像と演劇を学んだ後、一貫してアートの可能性を探る実験的な試みを続けてきた。
初期の作品として、銭湯の男湯と女湯の写真を左右対称に組み合わせた〈銭湯 SENTO〉シリーズ、自身が回転することでできた円盤状の痕跡を風景に配置した〈回転回 KAI-TEN-KAI〉シリーズが知られている。令和5年日本文教出版「高校美術」に掲載され、映像メディア表現の教材となった。
2000年文化庁派遣在外研修員、2001年フランス政府文化機関 Images Au Centre 所属アーティストとしてポンピドゥーセンターのアーティスト・イン・レジデンスプログラムに参加、2002年ケルンメディア芸術大学客員芸術家としてオープンイノベーションを経験する。
近年はアートの世界で培ってきた実績を教育だけでなく、地域、ビジネス、起業の世界と結び、革新性、創造力を育成するプログラムを開発している。
●主な個展・グループ展
1996年「空間シリーズせんとう(銭湯)」ツァイト・フォト・サロン、東京
1997年「時空間シリーズせんとう(銭湯)オールカラー東日本編」新宿コニカプラザ他
1997年「LUST UND LEERE(欲望と空虚)日本の現代写真」クンストハレ、ウィーン
1998年「サンマリノ・インターナショナル・フォトミーティング1998」サンマリノ
1999年「FIRST STEPS」グレイアートギャラリー、ニューヨーク
1999年「屋代敏博 展 -太陽と鉄塔-」INAXギャラリ-2、東京
2000年「回転」Y・H・スペース、ベルファスト、北アイルランド
2000年「アルル・国際写真フェスティバル」アルル、フランス
2001年「現代の写真・建築と風景」ヴァランセ城、ロワール、フランス
2002年「客員芸術家」ケルンメディア芸術大学、ドイツ
2003年「回転回」ツァイト・フォト・サロン、東京
2005年「横浜トリエンナーレ2005」神奈川
2005年「アーティスト・イン・ミュージアム」横浜美術館、神奈川
2006年「回転回LIVE!」東京都現代美術館、東京
2006年「Sculpture week」Art Omi International Art Center、ニューヨーク
2007年「目黒の新進作家 七人の作家、7つの表現」目黒区美術館、東京
2007年「日本の新進作家vol.6 スティル/アライヴ」東京都写真美術館、東京
2007年「回転回オートクチュール」ツァイト・フォト・サロン、東京
2008年「写真ゲーム 11人の新たな写真表現の可能性」川崎市民ミュージアム、神奈川
2008年「TEAM12 屋代敏博 Time traveler」トーキョーワンダーサイト渋谷、東京
2008年「Memories of the Future テグ・フォト・ビエンナーレ2008」テグ、韓国
2009年「Photography NOW 2009」The Center for Photography at Woodstock、アメリカ
2011年「transmission」 板橋美術館、東京
2013年「Crown on the Earth」 Japanese-German Center、ベルリン
2016年「Le bal」ツァイト・フォト・サロン、東京
2017年「Topコレクション 平成をスクロールする」東京都写真美術館、東京
2018年「山のような100ものがたり」 山形ビエンナーレ
2022年「メラメラバチコイ」東北芸術工科大学、山形
2022年「屋根のない美術館」 山形ビエンナーレ
2023年「Trun-Trun-Trun」「Phonographer」やまがたクリエイティブ シティセンター Q1
●主な受賞歴
1998年「第2回フィリップモリス・アート・アワード」受賞
2008年「日本写真協会新人賞」受賞